解離性障害
病気の概要や特徴
解離性障害ってどんな病気?
解離とは
人間は、自分の存在をつながったひとまとまりのものとして認識しています。つまり、過去から現在までの記憶が途切れなく続いていると感じ、じぶんがどういう人間であるかというイメージをもつことができます。心と身体も一体のものであることを実感できます。
ところが、「解離」では、意識、記憶、思考、感情、知覚、行動、身体イメージなどが分断されて体験されます。たとえば、特定の場面や時間の記憶が抜け落ちていて(健忘)、その間に自分らしくない行動をとっていることがあります。また、突然ショッキングな記憶や感情が目の前の現実のように甦って体験されたり(フラッシュバック)、自分の身体から抜け出して離れた場所から自分の身体を観ていると感じたり(体外離脱体験)、自分が自分ではないように感じたり、あるいは自分の感情が感じられなかったり(離人感)、夢の中にいるように感じたり、周囲が非現実的に感じて白黒で立体的に感じられなかったりすることもあります。
離人感や白昼夢のように、誰にでも一過性にみられ解離現象もあります。幼少期にみられることがある「想像上の友達 imaginary companion」も解離の一種です。周囲の人たちとの関係に困難を抱えた子どもたちは、時に、他の人には見えない「想像上の友達」を作り出し、彼らに打ち明け話をしたり、遊び相手になってもらったりして、支えられる体験をします。
「解離」は、特に子どもたちにとって、こころの防衛として働きますが、一方で、心が破綻した症状としても現れます。その場合、自然治癒は難しく、治療が必要になります。つまり、「解離」のために持続的にその人の社会的な機能や対人関係などが脅かされ、障害となる場合、それは症状として治療を要するものとなります。
なお、解離症状を呈する病気は解離性障害ばかりではなく、心的外傷後ストレス障害や境界性パーソナリティ障害、発達障害などの症状としても現れることがあります。
解離性障害とは
解離性障害は解離症状を主とする病気で、患者さんは、そのために社会的・職業的に支障を来し、対人関係にも困難を抱えています。
要因としては心的外傷体験、幼少期の主たる養育者との愛着の問題、解離を生じる素質などが考えられていますが、現在の患者さんが抱えているストレス状況も病状の程度や経過に少なからず影響を与えます。
解離性障害では、患者さん自身が解離症状に気づいていないことも少なくなく、診断が難しい面があります。
解離性障害は、解離性同一性障害、解離性健忘、離人感・現実感消失障害などに分類されます。
解離性同一性障害
解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder:DID)は、一人の人間の中に複数の人格(パーソナリティ)が存在するような状態が見出されるもので、たとえば、自分では制御できない複数の思考の流れや発言を体験することがあります。
それらの人格の一部がコミュニケーションをもっていることがありますが、他の人格の存在にほとんど気づかず、漠然とした気配としてのみ感じて恐怖を感じているだけのこともあります。解離性同一性障害の大半が幼少期に虐待(特に性的な虐待)を繰り返し受けていると言われており、女性に多いことが知られています。
解離性健忘
解離性健忘は、一般的な出来事や社会常識などの記憶は保たれているにもかかわらず、自伝的な(個人的な)記憶だけが抜け落ちて思い出せないものです。
心的外傷体験や強烈なストレス因に関連した記憶だけが選択(限局)的に思い出せないタイプがほとんどですが、まれに自分の名前も経歴も何もかもすべて思い出せない場合もあります。
離人感や現実感の消失
離人感や現実感の消失は誰にでも一過性にみられることがありますが、それが持続的あるいは反復的に現れ、そのために社会的・職業的に支障を来し、対人関係にも困難を抱えた場合には、治療が必要な病気といえます。また、離人感や現実感消失は、うつ病や不安障害と併存することがあります。
解離性障害の代表的な治療法
解離性障害の治療や対処
解離性障害は心的外傷との関連が示唆されているため、治療もそれに準じた心理療法が推奨されています。
心理療法の過程では、治療者に対してさまざまな感情や考えが向けられますが、その中には実際の治療者とはかけ離れていたり、不合理であったりするものもあります。
それらを率直に話し合い、治療者との信頼関係を築くことが第一の目標になりますが、それさえ易しいことではありません。気長に、根気強く続けることが大切です。
しかし、心理療法は、経済的・時間的制約などの理由から、誰もが受けられる治療ではありません。
解離性障害に対して、わが国の医療保険の適応となってる薬剤はなく、海外でも有効性が確認されている薬剤もありません。
心的外傷後ストレス障害に対する有効性が報告されている薬剤(選択的セロトニン再取り込み阻害薬など)の投与が試みられることがありますが、すべての患者さんに有効であるとはいえません。
また、不安や抑うつなどに対症療法的に投与されることがあります。その場合は、依存性をもたらす可能性や、衝動を抑えられなくなってしまう可能性があるベンゾジアゼピン系薬剤は控えることが望ましいと考えられています。